「ふむ、サンプルに異常なし。この状態に魔晄の影響を与えると……」
一人で呟く男の後姿。清潔とは言いがたいよれた白衣。姿勢悪く丸まった背中。ただ漫然と伸ばされただけの艶のない長髪。ろくに手入れもしていないのだろう。無造作に一つに纏められた髪には不潔感すら覚える。
セフィロスは見たくもないその姿を視界の隅に入れながら、不快感に眉を顰めた。
理由など知りたくはない
「なぜ俺が宝条の研究室になど行かねばならない?」
不愉快そうな神羅の英雄に平然と対応出来る人間はそう多くはないだろう。
けれど、今セフィロスの前にいる黒服の男は、その数少ない人間の一人だった。少なくとも表面的には。
「宝条博士の指示です。科学部門の統括からソルジャー部門に対しての正式な依頼です」
生真面目に説明するタークスの男、ツォンは淡々とした口調をほんの少し緩める。
「セフィロス…あなたの個人的感情について口出しするつもりはありませんが、これ以上の命令拒否はあなた自身にも配下のソルジャーたちにも悪影響しか与えません」
どこか辺りをはばかる様に声を落として言うタークスに、そんなつもりはないだろうと思いながらも言ってみる。
「それは脅しのつもりか?」
「いいえ」
目を伏せて静かに否定するこの男は、タークスの中では最もセフィロスと共に行動することが多かった。
幾度かの任務をこなしてセフィロスが下した評価は、仕事に忠実で有能な男、という彼にしてはかなり高いものだった。